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業務アプリを作るなら、まずCloudflareとD1を検討してほしい──AIの言うとおりに作って、請求が来た話から

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前回の記事で、AI に自然言語で指示してアプリを作る「バイブコーディング」の注意点を書きました。今回はその続きで、もっと地味で、もっと確実に金を失う話です。

アプリを、どこに置くか。

作ったものは、どこかのサーバーで動かす必要があります。そして——ここを AI に任せると、高い確率で損をします。

先に結論を書きます。中小企業の業務アプリなら、Cloudflare Workers と D1 を第一候補にしてください。 当社では、特別な事情がない限りこの構成で作っています。

ただ、そう言われても「また新しいサービスか」で終わると思うので、なぜそこに行き着いたかから書きます。私自身の失敗と、支援先で言われた一言、2 つのエピソードから始めます。


エピソード 1:AI の言うとおりに作って、請求が来た

バックエンドのあるアプリを作ろうとして、AI に相談しました。すると、当たり前のように Heroku を勧められました。

言われたとおりに作りました。動きました。そして翌月、請求が来ました。

金額そのものより、驚いたのは心当たりがなかったことです。ほとんど触っていない。アクセスもない。それなのに、請求されている。

理由は後で分かりました。Heroku の課金は「使った時間」で決まり、しかも前月分が翌月に請求される仕組みだからです。

  • アプリを動かす環境(dyno)は、起動している限り時間で課金される
  • データベースなどの追加機能(アドオン)は、有効にしている限り秒単位で課金される
  • そして請求は翌月に来る

つまり、「使っていない」ではなく「止めていない」だけで課金は進みます。 しかも気づくのは翌月。AI は「Heroku にデプロイしましょう」とは言いますが、「使わないときは止めてください」「アドオンは消してください」までは、聞かなければ言いません。

これは Heroku が悪いという話ではありません。課金の単位と、請求のタイミングを知らずに始めた私の問題です。ただ、同じことをする人は多いと思います。


なぜ AI は Heroku を勧めるのか

Heroku のロゴ

Heroku は Salesforce, Inc. の商標です。

ここは押さえておく価値があります。AI が勧めてくる技術は、しばしば古いからです。

理由は単純で、AI は過去の文章から学んでいるからです。Heroku は 2010 年代に圧倒的な人気があり、「初心者はまず Heroku」という記事が世界中に大量に書かれました。その蓄積が、いまも回答に効いています。

でも、Heroku の無料プランは 2022 年 11 月 28 日に廃止されました

「Heroku なら無料で試せます」と書かれた記事は、いまも検索すれば大量に出てきます。そして AI も、それを踏まえた答えを返すことがあります。情報が古いまま、もっともらしく提示される。

AI 比較の記事で「半年前に試した印象は、もう別の製品の話」と書きましたが、AI が勧めてくる周辺技術についても同じです。特にインフラは、料金体系が数年で変わります。

対策は 1 つ。「その情報はいつ時点のものですか。最新の料金を確認してください」と聞き返すこと。 検索機能のある AI なら、その場で調べ直してくれます。


エピソード 2:「Cloudflare、なんで無料なの?詐欺?」

もう一つ。支援先で Cloudflare を使った構成を説明したとき、こう言われました。

なんで無料なの? 詐欺じゃないの?

まっとうな疑問です。無料で使えるサービスには、たいてい裏があります。後から高額を請求される、データを売られる、いきなり有料化される——警戒するのは正しい。

ただ、Cloudflare の場合は説明がつきます。

なぜ無料で配れるのか

1. 本業が別にある

Cloudflare の主力事業は、企業向けの CDN とセキュリティです。世界中にデータセンターを持ち、大企業から契約料を得ている。その設備は、もともと動いています。

2. 余っている場所で動かしている

すでに世界中で動いているサーバーの上で、小さなプログラムを追加で走らせる——この追加コストが、極めて小さい。だから小規模な利用は、事実上タダで配れます。

3. 開発者を増やすこと自体が目的

個人や小さな会社が無料で使い、慣れる。その人が勤め先で「Cloudflare を使いましょう」と言う。無料枠は、宣伝費です。

4. 通信量で課金しない、という戦略

これが業界的にはいちばん大きい。多くのクラウドは、データを外に出すとき(下り通信)に課金します。ここが利益の柱になっている会社もある。

Cloudflare は、この通信量課金を競合への攻撃材料として使っています。「うちは取りません」と掲げることで、他社から乗り換えを促す。無料枠が太いのは、この戦略の延長線上にあります。

では、無料の落とし穴はないのか

正直に書きます。あります。ただし、種類が違います。

  • 上限を超えれば課金される——無料枠は無制限ではありません
  • 料金体系は変わりうる——現に Heroku は無料を廃止しました。Cloudflare が未来永劫このままである保証はありません
  • 重い処理には向かない——後述しますが、向き不向きがあります
  • 1 社に依存する——6〜7 月の記事で書いた「特定の 1 社に依存しない」は、インフラにも当てはまります

なので答えとしては、**「詐欺ではないが、無料が永遠に続く前提で設計するのは危険」**です。


その上で:私たちは、これを標準にしました

疑問に答えるだけで終わると弱いので、はっきり書きます。

中小企業の業務アプリを作るなら、まず Cloudflare の構成を検討してください。 > 当社では、特別な事情がない限りこれを第一候補にしています。

理由は「無料だから」ではありません。無料でなくても選ぶ理由が 5 つあります。

1. サーバーの管理が、そもそも発生しない

いちばん大きいのはこれです。

借りたサーバーには、終わらない仕事が付いてきます。OS の更新、ミドルウェアのバージョン上げ、証明書の更新、ディスクの空き容量、監視、そして障害対応。

Workers には、これが 1 つもありません。 借りていないからです。コードを置くと、Cloudflare の設備の上で動く。それだけ。

技術的負債の記事で「あの人しか分からないシステムは変動金利型の借金」と書きました。サーバーは、その借金がいちばん溜まりやすい場所です。中小企業に、サーバーの面倒を見続けられる人はまずいません。最初から持たないのが、いちばん確実な対策です。

2. 起動待ちが、ほぼない

多くのサーバーレス環境には「コールドスタート」という問題があります。しばらく使われていないと待機状態になり、次のアクセスで起動に数秒かかる。

Heroku の安価なプランも、30 分アクセスがないとスリープします。だから久しぶりに開くと、画面が出るまで待たされる。社内ツールは「たまにしか使わない」ものが多いので、この待ち時間が定着を殺します

Workers はコンテナを立ち上げる方式ではなく、より軽い仕組みで動くため、いわゆるコールドスタートがほぼ発生しません。月曜の朝にひさしぶりに開いても、すぐ出る。

地味に聞こえますが、現場で使われるかどうかを分ける要素です。遅いツールは、使われなくなります。

3. 必要なものが、1 か所に揃っている

業務アプリに必要なのは、たいてい 実行環境・データベース・ファイル保管・画面配信の 4 つです。

これを別々のサービスで組むと、アカウントも、請求も、認証も、障害時の切り分けも、全部バラバラになります。「動かないんだけど、どこが悪いのか分からない」が起きる。

Cloudflare は、この 4 つが同じ中にあります。しかも接続はバインディングで宣言するだけ。つなぐための設定作業が、ほとんど消えます。

4. データを取り出すのに、金を取られない

多くのクラウドは、データを外に出すとき(下り通信)に課金します。画像や書類を配るアプリだと、ここが効いてきます。しかも乗り換えようとして全データを取り出す瞬間に、いちばん高くつく——これが囲い込みとして働いてきました。

Cloudflare の R2 は、この下り通信の課金がありません

これは料金の話であると同時に、逃げやすさの話でもあります。AI モデルの記事で「特定の 1 社に依存しない設計」と書きましたが、出ていくコストが低いことは、依存を減らす

5. 小さく始めて、そのまま本番に出せる

前回の記事で、「捨てられるものか、捨てられないものか」を先に決めると書きました。

普通は、試作と本番で環境を変えます。試作は無料の環境、本番は借りたサーバー——だから本番に出す段階で作り直しが発生する

Workers なら、試作で作ったものがそのまま本番になります。規模が増えたら月 $5 を払うだけ。作り直しが発生しません。

小さく作って、使ってから広げるという進め方と、この構成は相性が良い。というより、この構成だからその進め方ができる、という関係にあります。

他の選択肢と比べると

公平のために、他の選択肢も並べます。

Cloudflare WorkersHeroku従来型のレンタルサーバー・VPS
サーバー管理不要不要必要(OS・更新・監視)
無料で始めるできるできない(2022 年に廃止)サービスによる
最低料金$0〜(有料は $5/月)$5/月〜+ DB 別数百円〜数千円/月
起動待ちほぼない安価プランはスリープあり常時起動
DB・ファイル保管同じ中に揃うアドオンで追加(別課金)自分で入れる
課金の単位リクエスト数・行数稼働時間(止め忘れが効く)月額固定
重い処理・長時間処理苦手できるできる
既存システムとの密結合苦手できるできる

**右に行くほど「何でもできるが、面倒を見る必要がある」。左に行くほど「できることは絞られるが、面倒がない」**という並びです。

そして中小企業の業務アプリは、たいてい左側で足ります。数万件の台帳、社内 30 人の入力、問い合わせの一次対応——ここに専用サーバーは要りません。


Cloudflare Workers と D1 とは、何か

Cloudflare のロゴ

Cloudflare、Workers、D1、R2 は Cloudflare, Inc. の商標です。

用語を整理します。

名前何をするものたとえるなら
Workersプログラムを動かす場所アプリの本体が住む部屋
D1データを保存するデータベース台帳・帳簿
R2ファイル(画像など)を保存する場所書類棚
Pages / 静的配信画面(HTML)を配る店頭に並べる棚

業務アプリを作るとき、必要なのはたいていこの 4 つです。そして 4 つとも、同じ Cloudflare の中で完結します。

これが地味に効きます。別々のサービスを組み合わせると、接続の設定、認証、料金、障害時の切り分けが、全部バラバラになる。1 か所にまとまっていると、そこが消えます。

無料枠の実際

2026 年 8 月時点の目安です(料金は変わるので、必ず公式で確認してください)。

項目無料枠の目安
Workers のリクエスト数1 日 10 万回
1 回あたりの CPU 時間10 ミリ秒
公開用のアドレス〜.workers.dev が無料で使える
有料プラン$5 から(月 1,000 万リクエスト)

1 日 10 万リクエストが、どのくらいか。社員 30 人が 1 日 100 回操作しても 3,000 回です。社内向けの業務アプリなら、無料枠の中で本番運用できる規模感です。

D1 は、読み書きした行数とデータ量で課金され、Workers の枠に含まれます。社内の台帳程度なら、まず超えません。


実例:510 室の備品台帳を、この構成で作った

抽象論だけでは分かりにくいので、実際に作ったものの話をします。

備品管理の記事で紹介した、約 510 室を運営する管理会社向けの備品台帳アプリです。現場がスマホで撮影すると、AI が型番を読み取って台帳に記録されるというもの。

これを、こう作りました。

役割使ったもの
アプリ本体(バックエンド)Cloudflare Workers
データベース(備品の台帳)D1
撮影した写真の保管R2
画面(現場と事務所)React
型番の読み取りClaude API

現場のスマホから撮影した写真がWorkersに届き、Claude APIで型番を読み取り、D1に台帳として記録、写真はR2に保管、事務所のReact画面から参照する構成図

備品台帳アプリの構成。実行・データベース・ファイル保管が Cloudflare の中で完結している。

サーバーの管理は、一切していません。 借りていないので、止め忘れも、更新も、障害対応もない。

そして重要なのは——この規模なら、インフラの費用はほぼかかっていないということです。かかっているのは、AI の画像認識の利用料だけ。

「業務アプリを作る」と聞くと数百万円の話に聞こえますが、置き場所のコストは、もうそこではありません


向いていない場合

例によって、万能ではありません。向かない場面をはっきり書きます。

向いている向いていない
社内の業務アプリ、管理ツール何十分もかかる重い計算処理
問い合わせ対応、簡単な API大量データの一括集計・分析
台帳、在庫、予約などの記録既存の Oracle・SQL Server 等との密結合
画像や書類の保管特殊なミドルウェアが必要な構成

1 回あたりの処理時間に制限があるのが最大の制約です。長時間かかる処理は、そもそも設計を変えるか、別の場所で動かす必要があります。

また、既存の基幹システムと深く繋ぐ必要があるなら、話は別です。費用の記事で書いた通り、既存システムとの接続は最も金額を動かす要因で、置き場所の選択もそこに引きずられます。



実際に組むときは、こちらへ

ここまでが「なぜこの構成を選ぶか」の話です。

実際に手を動かす段になると、他の環境とは勝手が違う部分があります。 接続情報の渡し方、CPU 時間の数え方、D1 が SQLite であること——ここを知らずに始めると、動かない理由が分からず止まります。

実装の勘所は、別記事にまとめました。

Cloudflare Workers + D1 で業務アプリを組むときの 5 つの勘所 バインディング/CPU 時間と待ち時間の違い/D1 が SQLite であること/マイグレーション/秘密情報の扱い、そして無料枠の壁と越え方。AI に出す指示文つき。


まとめ

結論から。中小企業の業務アプリなら、Cloudflare Workers + D1 を第一候補にしてください。

推す理由は 5 つ。無料だからではありません。

  1. サーバー管理が発生しない——OS 更新も証明書も監視も、そもそも無い。中小企業に面倒を見続けられる人はまずいない
  2. 起動待ちがほぼない——たまにしか使わない社内ツールほど効く。遅いツールは使われなくなる
  3. 必要なものが 1 か所に揃う——実行・DB・ファイル保管・画面配信。切り分けに悩まない
  4. 下り通信で課金されない——料金の話であり、逃げやすさの話でもある
  5. 試作がそのまま本番になる——作り直しが発生しない。小さく始める進め方と噛み合う

そして、選ぶ前に押さえておくべきこと。

  • AI が勧める技術は、しばしば古い。Heroku の無料プランは 2022 年 11 月に廃止済み。課金は時間ベースで請求は翌月——「使っていない」ではなく「止めていない」だけで進む
  • 「なぜ無料か」の答えは、本業が別/余った設備で動く/開発者獲得が宣伝費/通信量で課金しない戦略。詐欺ではないが、無料が永遠に続く前提で設計するのは危険
  • 向かないのは、長時間かかる処理/大量データの集計/既存基幹システムとの密結合。ここに当たるなら別の構成を選ぶ

約 510 室の備品台帳を、この構成で作りました。サーバー管理はゼロ、インフラ費用もほぼゼロで動いています。「業務アプリを作る」と聞くと数百万円の話に聞こえますが、置き場所のコストは、もうそこではありません

「どう作るか」は AI が教えてくれます。でも「どこに置くか、いくらかかるか」は、いまのところ自分で決めたほうが安全です。そして選ぶなら、まずここから見てください。

Acetyl:Tech は、こうした構成の選定から、業務で使える形での構築までを支援しています。「社内で作ってみたけれど、このまま使い続けていいか不安」というご相談も承ります。詳しくは「業務アプリ開発」のページをご覧ください。


出典・参考

料金・仕様は変動します。導入前に必ず各公式サイトでご確認ください。

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