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AI驚き屋に注意──技術は指数関数でいい。現場は違う

AI驚き屋情報の見極め一次情報AI導入二重管理セキュリティ中小企業意思決定

初回の打ち合わせで、この質問を何度も受けてきました。

「うちは、もう手遅れですか」

数は数えていません。ただ、覚えている範囲で片手では足りない。従業員が数人の会社の社長さんが、まだ何も導入していない段階で、すでに負けた顔をしている。

よく聞くと、原因はだいたい同じところにあります。SNSやYouTubeで流れてきた「AI活用」の情報を、しばらく浴びた。そして誤解したのではなく、脅かされている。

この記事は、その話です。

最初に立場を書いておきます。**当ブログは業務でClaudeを推奨しています。**そのうえで、この記事の後半ではClaudeに関する事故を扱います。都合よく書かないために、先に開示しておきます。

何を「過剰」と呼んでいるのか

まず、対象をはっきりさせます。批判の的が広すぎると、ただの悪口になるので。

この記事で扱うのは、YouTubeやXの、個人のペルソナを持ったAI情報発信専用アカウントが、エンドユーザー向けに出す情報です。それ以外は対象にしません。

対象にしない対象にする
開発者が自分の実装について書いた技術記事情報発信そのものが商品になっているアカウント
企業の公式発表、研究者の論文紹介実装も運用もせず、紹介だけで回している発信
新しい技術に素直に興奮している個人検証手段を持たない読者に向けた、断定

境目は熱量ではありません。その人が何を売っているかです。

情報そのものが商品になっている場合、驚きは在庫です。切らすわけにいかない。毎日「今日いちばんヤバいやつ」を仕入れ続けなければ、アカウントが止まる。悪意の話ではなく、構造の話です。

言葉の整理

「プロ驚き屋」という呼び名は、2023年3月16日にnoteで公開された記事が語源とされています。ITmedia の記事(2024年9月、マスクド・アナライズ氏)では、こう定義されています。

最先端テクノロジーに対して、SNSなどで誇張表現を使ってその存在をアピールする人たち

典型的な型もほぼ共通しています。

  • 「やばすぎる」「神」「最強」といった語を多用する
  • 「医者/弁護士/プログラマーはもう必要ない」といった極端な未来予想
  • 体言止めの箇条書きで、新しいツールや論文を並べる
  • 都合の良い成功例だけを根拠にする

念のため書いておくと、新しい技術に興奮するのは正常なことです。最初に騒ぐ人がいなければ、普及はもっと遅れます。問題は熱量ではありません。

技術は指数関数でいい。現場は、違う

ここがこの記事の背骨です。

AIの技術的な進歩が指数関数的である、という主張は**否定しません。**実際そう見えますし、そこを疑う話ではない。

問題は、そこから現場への浸透の速度を、同じ曲線で語ってしまうことです。

技術の進歩は指数関数的な曲線を描くが、現場への浸透は階段状に進むべきであり、驚き屋はこの2本の線を1本に見せてしまうことを示した図

この2本は、別の線です。

  • 「モデルが2年で10倍賢くなった」は、事実
  • 「だから御社も2年で10倍」は、嘘

現場への浸透は、階段でいい。というより階段であるべきです。1段上がったら、そこで固める。誰が使うのか、止まったらどうするのか、元のやり方に戻せるのか。それが決まってから次の段に足をかける。

技術の曲線に合わせて現場を引っ張り上げようとすると、途中の段を飛ばすことになります。飛ばした段は、あとで必ず取りに戻ることになる。

驚き屋の害は、嘘をつくことではありません。この2本を1本に見せることです。

では、1段とは何か

「階段でいい」と言うだけでは、何も言っていないのと同じなので、うちが1段と数えている中身を書きます。これまで別々の記事に書いてきたことを、1段の条件として並べ直したものです。

  1. 誰が使うかが決まっている。「みんなで使う」は、決まっていないのと同じです。名前が出てこないなら、その段はまだ乗っていません
  2. **止まったときに戻せる。**元のやり方を消していない、ということです。AIの応答が変わっても、業務は止まらない
  3. **出てきたものの置き場が決まっている。**生成された表やメモを、どこに、どの名前で置くか。ここを決めないと、次の節で書く「壊す」が起きます
  4. 1か月、実際に回っている。

4つ目がいちばん飛ばされます。1〜3が揃った時点で、もう次に行きたくなる。動いているので。

ただ、1か月回してみて初めて出てくる問題があります。月末にしか発生しない作業、担当者が休んだ日、例外的な取引先。ここで転ぶと、1段目に戻るのではなく、転んだまま2段目に足をかけている状態になります。

技術の側は、待ってくれます。急がなくても、勝手に伸びていくので。

嘘はついていない。分母がないだけ

では、彼らは何を間違えているのか。

多くの場合、**何も間違えていません。**紹介されるツールは実在します。デモは本当に動きます。ニュースは本物です。

欠けているのは、分母だけです。

企業のAI支出は従業員1人あたり月額で、上位1%が7400ドル、上位10%が650ドル、中央値は11.95ドル。同じ縮尺で並べると中央値の棒はほとんど見えないことを示した図

米国の法人カード会社 Ramp が公開している AI Index の2026年8月版に、こんな数字があります。

指標数値
Anthropic を利用している企業43.5%
OpenAI39.7%
xAI4.0%
Fable 5 が占める、企業がAnthropicから購入したトークンの割合6%(支出ベースで11.4%)
GPT-5.6 Solトークンで25%、支出で23%

Fable 5 は最上位のモデルです。実在します。本当に速いし、本当に賢い。SNSでもさんざん話題になりました。

それでも、企業が実際に買ったトークンの6%です。

そしてもうひとつ、こちらのほうが効きます。

AI支出(従業員1人あたり・月額)金額
上位1%の企業$7,400
上位10%の企業$650
中央値の企業$11.95

上位1%と中央値の差は、約620倍です。図は対数ではなく同じ縮尺で描いていて、中央値の棒は線1本ぶんの幅しかありません。

SNSに流れてくる「AI活用」の話は、ほぼ全部が上の棒の話です。それを見て「うちは遅れている」と感じるのは、マラソン中継で先頭集団だけを見て、自分が最下位だと思うのに似ています。実際には、真ん中の人はまだ準備運動をしている。

なお、この「話題になっている量」と「実際に使われている量」のズレについては、「ChatGPTの方が分かりやすくない?」と言われて、まず聞き返したことでも触れました。あのとき仮説として書いたことが、今回はデータで裏づけられた形です。

Google ですら、デモは編集する

「でも動画で動いてるのを見た」という反応があります。

2023年12月、Google が Gemini の "Hands-on" デモ動画を公開しました。手をかざすとリアルタイムで反応する、印象的な映像です。

そして Google 自身が、動画の説明欄でこう書いています。

We created the demo by capturing footage…Then we prompted Gemini using still image frames from the footage, and prompting via text. (映像を撮影してデモを作りました。そのうえで、映像から取り出した静止画のフレームと、テキストによる指示で Gemini にプロンプトしました)

TechCrunch が指摘した相違点が具体的です。

動画で見えたもの実際に必要だったもの
じゃんけん手の動きに即座に「じゃんけんしてるね!」3つのジェスチャーを一度に見せ、「Hint: It's a game」というテキストのヒントを添える
惑星の順序自然な質問に即答「太陽からの距離を考え、理由を説明せよ」という詳細な指示

大事なのは、これは捏造ではなく編集だということです。素材は本物で、Gemini は実際にその答えを出しています。並べ替えて、間を詰めて、指示を画面の外に出しただけ。

そして、動画とはそもそもそういうものです。**「こう見せたい」順に並べ替えられる。**世界最大級の企業が公式に出す動画ですらこうなるなら、個人が一人で作って一人で編集した動画は、なおさらです。

煽りが起こす、2つの壊れ方

ここまでが「何が起きているか」です。ここからが「何が壊れるか」。

ここで「情報商材に騙される人が増えている」と書きたくなります。書けば話は締まります。

**ただ、データは逆でした。**国民生活センターに寄せられた情報商材の相談件数は、3年連続で減っています。

年度件数
2023年度6,256
2024年度4,163
2025年度2,623

だから、詐欺の線では書きません。実害は、そこではないということです。

害は2方向に出ます。止まるか、壊すか。

止まる

2026年版の中小企業白書に、こんな数字があります。

事実数値
AI活用に取り組んでいない企業73.6%
取り組まない理由 1位「活用する業務がイメージできていない」63.4%
同 2位「推進する人材が不足している」40.0%

1位が「イメージできていない」であることに注目してください。「効果がない」でも「費用が高い」でもありません。自分の会社の、どの仕事に当てはめればいいのか分からない。

煽りを浴びると、この状態が悪化します。期待値だけが先に上がるからです。

「AIで営業が10倍」を見たあとで、目の前にある「請求書の宛名を毎月手で直している」という仕事を見ると、あまりに地味に見えて、着手する気が失せる。本当はそこが正解なのに。

このあたりはほとんどの会社に、いま「AI導入」は必要ありませんに書いたことと同じです。

冒頭の「うちはもう手遅れですか」に対して、私はだいたい同じことを聞き返しています。

「いま、いちばん時間を取られている作業は何ですか」

ここで出てくるのは、ほぼ例外なく地味な作業です。同じ数字を2か所に打ち込んでいる。毎月同じ書式の書類を作り直している。電話で聞いた内容を、あとでノートに書き写している。

**そして、そのどれもが手遅れではありません。**むしろ何も始めていないぶん、余計な置き場が増えていないので、着手しやすい状態にあります。

遅れているのは会社ではなく、期待値のほうが先に行ってしまっているだけです。

壊す(こちらのほうが深い)

止まるのは、まだ被害が可逆です。深いのはこちらです。

検証しないまま入れると、既存の台帳の"横"に、もう一つデータの置き場ができます。

既存の台帳の横に、AIが生成したスプレッドシートや要約メモやチャット履歴という新しいデータの置き場ができ、どれが正しいのか決まらなくなる状態を示した図

これが厄介なのは、表面に出ないことです。動いているように見える。むしろ最初のうちは便利になる。壊れているのは、もっと深いところ——「どれが正か」が決まらなくなったという一点です。

そしてAIは、この構造を作るのが特にうまい。

  • チャットの履歴に、決定の経緯が残る
  • 生成させたスプレッドシートに、集計結果が残る
  • 要約させたメモに、会議の結論が残る

全部が「正」の候補になります。3か月後、数字が合わないときに、どれを見ればいいのか誰も言えない。

これは新しい問題ではありません。「エクセルの転記を自動化したい」の前にで書いたとおり、**同じ情報を複数の場所に入力する「二重入力」を経験している人は56%**います(株式会社オロ、2026年5月/働く人対象)。原因は個人の怠慢ではなく、部門ごとに部分最適化された構造です。

AIは、その構造を一段速く作ります。

経産省が言い始めた「AI-Ready化」で、実家の医院の請求と勤務時間管理のデータ構造を整理し直した話を書きました。あのときやったことは、要するに二重管理をなくして、どれが正かを決めただけです。派手さはありませんが、あれをやらずにAIを載せると、載せたぶんだけ置き場が増えます。

驚き屋が扱わないもの ── 事故は「在庫」にならない

さて、ここからが本題です。

当ブログはClaudeを推奨しています。だからこそ、この節を書きます。

2026年7月27日、共有チャットと Artifacts が検索に出た

項目事実
発覚2026年7月27日にTechCrunchが報道、翌28日にITmedia。Redditユーザーが site:claude.ai/share という検索で発見した
対象共有チャットと Artifacts の両方
中身医療・サービス関連の具体的な記述や、個人・センシティブ情報を含むものがあったとされる
Anthropic の説明「フォーラムやSNS投稿など、検索エンジンがクロールできる場所にリンクが掲載された場合に限られる」
対応7月27日午後の時点では是正されたとみられる。件数は報じられていない

Artifacts で社内向けのダッシュボードや集計表を作った方は、少なくない数いるはずです。売上の推移、在庫の一覧、顧客ごとの対応履歴。「リンクを知っている人だけが見る」つもりで作ったものが、検索で出た。

なぜ、除外の指示が効かなかったのか

ここが、この記事でいちばん持ち帰ってほしいところです。

ある技術記事が2026年7月29日時点で確認した構成を引きます。

パスrobots.txtページ側の指示
共有チャット /share/*Disallow ありHTTPヘッダに X-Robots-Tag: none(noindex と同義)
公開Artifact /public/artifacts/*記載なしHTMLの meta に noindex, nofollow

一見すると、二重に守られているように見えます。「クロールするな」と「インデックスするな」の両方が書いてある。

ところが、この2つを併用すると機能しません。

robots.txtのDisallowでクローラーが止まると、ページの中に書いたnoindexの指示自体が読まれないため、除外の指示が二重にあったのに効かなかったという仕組みを示した図

クロールを止めると、クローラーはページの中身を取得できません。中身を取得できないということは、中に書いてある「インデックスするな」という指示にも到達できないということです。

「入るな」と書いた扉の内側に「この部屋の写真は載せないでください」と貼っても、扉の前で引き返した人は、その貼り紙を読めません。

除外の指示が二重にあったのに、二重だったせいで効かなかった。

そして発見の経路は、こうです。利用者自身が Reddit や X や GitHub に共有URLを貼った → 検索エンジンがそのリンクを辿った → 認証なしで開ける公開ページだったので、インデックスされた。

なお、ここは正直に書きます。**私はこの記事を書いている時点で、claude.ai/robots.txt を自分で開いて現在の記述を確認できていません。**だから「2026年7月29日時点で、ある技術記事がこう報告している」という書き方に留めています。この記事の最後で、その理由に戻ります。

1年前、同じことが ChatGPT でも起きている

これを「Claudeの問題」として読むと、いちばん大事なところを取り逃します。

ChatGPT(2025年8月)Claude(2026年7月)
きっかけ利用者が「検索エンジンと共有する」チェックボックスを自分で入れた(明示的なオプトイン)利用者が共有URLをクロール可能な場所に貼った
結果個人的な会話が Google 検索に出た共有チャットと Artifacts が検索に出た
提供側の対応**機能ごと削除。**CISO は「短命な実験」と表現し、「ユーザーが意図しない内容を誤って共有する可能性が多すぎた」と説明是正されたとみられる

ChatGPT のほうは、**利用者が自分でチェックを入れています。**同意を取っていた。それでも OpenAI は「意図しない共有が多すぎる」と判断して、機能そのものを消しました。

同意を取れば安全、ではない。 設計した側が、そう判断して降りた実例です。

1年のあいだに、別々のベンダーで、同じ形の事故が2回起きている。これはどちらかの会社が不注意だった、という話ではありません。共有リンクという仕組みそのものが持っている性質です。

持ち帰るのは、この一行

noindex は「検索よけ」であって、「アクセス制御」ではありません。

検索結果から消えても、URLを知っている人は開けます。だから、こう扱うのが正しい。

共有リンクは、鍵のかかっていない公開URLだと思って扱う。

これはAIに限りません。クラウドストレージの共有リンクも、アンケートフォームの回答一覧も、議事録ツールの共有ページも、全部同じです。「リンクを知っている人だけ」は、アクセス制御ではなく運用の願望です。

社内で決めておくべきことは、この記事の範囲では3つだけです。

  1. 何を共有リンクに載せてよいかを決める。顧客名、金額、個人情報が入るなら、共有リンクは使わない
  2. **貼った場所を記録する。**どこに貼ったか分からないリンクは、後から回収できません。「Slackのどこかに貼った」は、回収できないのと同じです
  3. **定期的に、発行済みのリンクを見に行く。**多くのサービスは設定画面から共有中の一覧を確認・失効できます。Claudeなら「設定 → プライバシー → 共有チャット」から確認できます

そして、これは今回の件に限った話ではありません。同じ性質を持つものが、どの会社にもあります。

  • クラウドストレージの「リンクを知っている全員」設定
  • アンケートフォームの回答一覧ページ
  • 議事録ツールや資料共有ツールの共有ページ
  • 社外向けに一度だけ出した、資料のダウンロードURL

どれも「リンクを知っている人だけ」で運用されていて、リンクがどこまで広がったかを誰も追えていないことが多い。今回のように検索に出るかどうかは、その先の話でしかありません。

このあたりはなぜ「会社のAI」でなければいけないのかと「AIのルールを作りたい」と言われて、4項目にしましたに続きます。

補足 ── 熱そのものが罠になることもある

同じ年の3月31日、Claude Code のソースコードが流出しました。原因は、Bun というランタイムが既定で生成するソースマップを、.npmignore と package.json の files フィールドで除外していなかったこと。公開された npm パッケージに 59.8MB のソースマップが同梱され、約513,000行・1,906ファイルのTypeScriptが読める状態になりました。

※ これは Anthropic自身のソースコードの話で、モデルウェイト、セーフティパイプライン、利用企業のデータは含まれていません。

ここでも、原因が地味であることが重要です。AIの能力とは何の関係もない。パッケージングの除外設定を書き忘れた、それだけです。

問題はそのあとでした。流出の翌日には、便乗キャンペーンが始まっています(トレンドマイクロ、2026年4月7日)。

  • 「流出ソースコード」「アンロックされたエンタープライズ機能」を騙る偽のGitHubリポジトリ
  • 画像として埋め込まれた偽のダウンロードボタン、GitHub Releases 経由のトロイの木馬化された7zアーカイブ
  • 配布物は Vidar(ブラウザの認証情報、暗号資産ウォレット、セッショントークンを窃取)と GhostSocks(感染マシンをSOCKS5プロキシとして悪用)
  • Claude Code 関連で104件のキーワード誘引リポジトリが確認され、うち2件が実際に悪意あるペイロードを配布していた

**「話題になっている」こと自体が、餌になりました。**煽りは、それを見た人の判断を歪めるだけでなく、その熱に寄ってくる第三者を呼びます。

なぜ、これらは流れてこないのか

ここまで挙げた事故を思い出してください。

  • robots.txt と noindex の相互作用
  • 共有リンクとアクセス制御の違い
  • .npmignore の除外設定

どれも「やばすぎる」「神」「最強」の型に乗りません。

驚きが在庫である以上、仕入れられるのは驚けるものだけです。事故は驚きの在庫にならない。だから仕入れられず、流れてこない。

結果として、導入の速度を上げる情報だけが運ばれ、安全側の情報が運ばれません。

これが「現場の安全性が壊れる」の中身です。誰かが嘘をついたからではありません。流れてくる情報が、最初から片側だけだからです。

同じ構造の話はClaudeがAIテスト中に実在企業へ侵入でも扱いました。あの件も、能力の話としては流れましたが、運用の話としてはほとんど流れませんでした。

うちが、やりかけた失敗

ここまで書いてきて、自分に跳ね返る話をしないのは不誠実なので、書きます。

**うちも38本、AIの記事を書いています。**同じ構造の上に乗っている自覚があります。実際、危ないところまで行ったことが何度もあります。

何を書きかけたかどうなったか
ある業界団体の「715件の診断結果」を、記事の根拠に使おうとした調べたら、AI展示会の来場者による5分程度の自己診断だった。芯には使えず、脚注に落とした
「HTMLとCSSには条件分岐がない」と書いた事実として誤り(@media などがある)。公開前に修正
LP制作についての記事を1本、最後まで書き上げた「自分たちにまだ言う権利がない」「エビデンスに基づいておらず内容が浅い」と判断して破棄
書店のブックカバーを「サイズ別に用意された既製品から選んでいる」と書いた指摘を受けて調べ直したら、一枚の紙をその場で折っていた。前回の記事を書き直した

4つとも、悪意はありません。調べ方が足りなかっただけです。

特に1つ目が典型でした。「715件」という数字は、見た瞬間に説得力があります。そのまま使えば記事は締まる。調べに行かなければ、そのまま出ていました。

だから、こう思っています。

驚き屋は職業ではなく、状態です。 締切があって、材料が足りなくて、目の前に都合のいい数字がある。その3つが揃えば、誰でもなります。

人にラベルを貼っても、この問題は解けません。

判定は、人ではなく投稿ごとにやる

「あの人は驚き屋だ」という判定は、たいてい外れます。同じ人が、ある日は丁寧な検証記事を書き、別の日は雑なまとめを流します。

だから、投稿ごとに5つ聞くのがいい。

AIに関する発信を評価するための5つの質問と、それぞれが通らなかったときに起きることを並べたチェックリスト

#質問通らないときに起きること
1**その人は何を売っているか。**情報そのものが商品なら、驚きは在庫熱量の理由を読み違える
2分母はどこか。「〇〇社が導入」の〇〇社は、全体の何%か上位1%の話を、自社の基準にしてしまう
3**デモか、運用か。**一度動いた記録か、毎日動いている記録か動いた1回を、動き続ける前提にしてしまう
4**「向いていない場合」が書かれているか。**1行もなければ、それは営業資料判断材料が片側しか手に入らない
5**一次資料に辿れるか。**リンクの先が別のまとめ記事なら、そこで止まる伝言ゲームの末端を根拠にする

5つ全部を毎回やる必要はありません。自分の会社にお金を使わせる判断に関わるときだけでいい。

この記事を、5つに通すと

自分でやってみます。

#この記事は判定
1何を売っているか**売っています。**業務システムの開発と伴走です。だから「慌てるな」と書くことが自社の利益になる場面がある、と読んでください
2分母はどこかRamp のデータには分母を書きました。ただし調査元自身が「サンプルはやや技術寄り」と注記しています。実際の普及率は、この数字より低い可能性があります
3デモか、運用か「うちはもう手遅れですか」と聞かれた回数は、私の観察です。**統計ではありません。**数えていないので件数も書いていません
4向いていない場合最後の節に書きます
5一次資料に辿れるか出典は全部末尾に置きました。**ただし robots.txt の構成だけは、私自身が一次で確認できていません。**上でそう書いたのは、この5番目に自分で引っかかったからです

5番は、正直に言えば書き直すべきところです。次に更新するときに、自分で確認して直します。

それでも、「SNSを見るな」とは書きません

最後に、この記事が向いていない場合を書いておきます。

**SNSでAIの情報を追うこと自体は、やめなくていいと思っています。**うちもFacebookとXで発信していますし、そもそもお客さんが来る道は、たいていここです。

SNSで煽られる → 自分で調べてみる → 分からない → 人に頼む

この流れの、最初のひと押しは煽りが担っています。それがなければ、そもそも調べ始めない。入口としては機能しているのです。

問題は、そこから先の速度です。

発信側の速度と、自分の現場の速度を、同じにしてしまうこと。

発信者は毎日新しいものを紹介できます。在庫を切らせないので。でもあなたの会社は、毎日新しい仕組みを導入することはできません。1つ入れたら、それが根づくまで数か月かかります。この違いを、AI研修が定着しない理由にも書きました。

技術の曲線は、勝手に伸びていきます。放っておいても伸びる。追いかける必要はありません。

現場は、階段でいい。

まとめ

  • 対象は「YouTubeやXの、個人のペルソナを持ったAI情報発信専用アカウントが、エンドユーザー向けに出す情報」。境目は熱量ではなくその人が何を売っているか
  • 技術の進歩は指数関数的でいい。**だが現場への浸透は階段でいい。**驚き屋の害は、この2本を1本に見せること
  • 彼らは嘘をついていない。欠けているのは分母だけ。最上位モデルは企業が買ったトークンの6%、AI支出の中央値は従業員1人あたり月$11.95で、上位1%との差は約620倍
  • Googleですら、Geminiのデモ動画を編集していた。捏造ではなく編集。動画は「こう見せたい」順に並べ替えられる
  • 害は2方向。止まる(未取組73.6%、理由1位は「活用する業務がイメージできていない」63.4%)か、壊す(検証なき実装が、台帳の横に置き場を作る。二重入力の経験者は56%)
  • 2026年7月、Claudeの共有チャットとArtifactsが検索に出た。Disallow と noindex を併用すると、クロールが止まって noindex が読まれない
  • 1年前、ChatGPTでも同じ形の事故。しかもあちらは利用者が自分でチェックを入れていた。OpenAIは機能ごと削除した。同意を取れば安全、ではない
  • **noindex は「検索よけ」であって「アクセス制御」ではない。**共有リンクは、鍵のかかっていない公開URLとして扱う
  • こうした事故は**「驚き」の在庫にならないので流れてこない**。導入を速める情報だけが運ばれ、安全側が運ばれない
  • 驚き屋は職業ではなく状態。締切と、材料不足と、都合のいい数字。3つ揃えば誰でもなる
  • 判定は人ではなく投稿ごとに5つ。売っているもの/分母/デモか運用か/向いていない場合/一次資料

「うちはもう手遅れですか」と思っているなら、まだ何も遅れていません。中央値の会社は、従業員1人あたり月12ドルしか使っていないので。 何から始めるかだけ決めたい、という段階のご相談も承ります。業務診断からどうぞ。診断だけで終わっても構いません。

出典・参考

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