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データセンターは、画面のないパソコンがずらりと並んだ建物です──水と電気を使う理由と、本当の危険

データセンタークラウド電力バックアップBCP医療経営者向け中小企業

2026 年 10 月 23 日、柳川山門歯科医師会で講演をしたとき(講演のお知らせ)、会場の先生からこんな質問をいただきました。

最近、データセンターの建設が話題になっているけれど、あれはそもそも何なのか。危険はないのか。

その場では、こう答えました。

  1. データセンターは、サーバーをものすごい数置いている建物です
  2. サーバーは、画面がついていない、電源を切らずに動かし続けるパソコンだと思ってください
  3. 冷やすための水と、電気を、それぞれ大量に使います
  4. 原発のような危険がある施設ではありません。ただ、戦争になったら真っ先に狙われるでしょう

質疑応答の数分で答えたものなので、あとから一つずつ裏を取りました。結論から言うと、4 つとも大筋は合っていました。ただ、2 か所は言い直したいところがあります。

  • 「安全性は問題ない」は、原発のような放射能の心配はないという意味では正しい。ただ、燃料や電池を置いていることも含めて、ご近所にとっての論点は別にある
  • 「真っ先に狙われる」は、言いすぎでした。2026 年 3 月、実際に戦争で被害を受けた例はある。ただし、わざと狙われたのかどうかは、確かめられていない

そしてもう 1 つ、その場では言えなかったことがあります。使う側にとっての本当の危険は、建物の近くに住むことより、データを 1 か所にしか置いていないことです。この記事は最後に、医院のデータの置き方の話をします。

まず、質問の背景にある九州の計画を並べておきます。

場所事業者規模(受電容量)予定
福岡県久留米市JR 九州電気システム1MW(約 180㎡ の平屋、免震構造)2027 年 4 月に運用開始予定
福岡市博多区NTT 西日本5MW2029 年度に完成予定
福岡県糸島市アジア・パシフィック・ランド(米国の不動産会社)最大 300MW、3,000 億円超2026 年 4 月に着工。2029 年 1 月以降に順次稼働、2034 年 12 月までに全 6 棟
北九州市(学術研究都市)アジア・パシフィック・ランド120MW(2 棟)2026 年 2 月に着工、建設中
鹿児島県薩摩川内市カイシンデジタルインフラストラクチャー(台湾の CDIB キャピタルグループ)350MW、関連投資は約 2 兆 8,500 億円2026 年度中に着工、2032 年度までに本格稼働を目指す

「MW(メガワット)」は、その建物が電力会社から受け取れる電気の大きさです。久留米市の計画は 1MW と小さく、糸島市や薩摩川内市の計画は、その数百倍の規模です。

データセンターとは ── 画面のないパソコンが並ぶ建物

サーバーは、「止まらないパソコン」

会場での答えのとおり、サーバーは画面のついていないパソコンだと思ってかまいません。中身は、皆さんの机の上のパソコンとほとんど同じで、計算する部品(CPU)、作業台(メモリ)、保存する場所(ディスク)でできています。

違うのは 2 つです。

  • 画面もキーボードもない。人が直接さわらず、ネットワーク越しに使う
  • 電源を切らない。24 時間 365 日、動き続けることが前提

皆さんがスマートフォンで LINE を送るとき、Web 予約を受け付けるとき、クラウド型の電子カルテを開くとき、画面の向こう側で動いているのが、このサーバーです。Acetyl:Tech のこのサイトや、うちが作る業務アプリも、Cloudflare という会社のサーバーの上で動いています(Cloudflare と D1 の記事)。そのサーバーも、どこかのデータセンターの中にあります。

なぜ、1 つの建物に集めるのか

サーバーを止めずに動かすには、サーバーそのもの以外に、いくつもの設備が要ります。止まらない電気、熱を逃がす設備、外とつながる回線、そして警備です。これを 1 台ずつ別々に用意するより、何千台もまとめて 1 つの建物で面倒を見たほうが、安くて確実です。それがデータセンターです。

データセンターの中にあるのは大きく4つ。サーバー:画面のないパソコン。棚(ラック)に何十台も積み、電源を切らずに動き続ける。電気:電力会社から大量に受け取り、停電に備えて大きな電池と非常用の発電機を置く。冷やす設備:サーバーが出す熱を外へ逃がす。空気で冷やす方式と、水を使う方式がある。回線:光ファイバーで外とつなぐ。1本切れても困らないよう複数の回線を引く。どれも止まらないことが前提で、電気や回線は二重に用意することが多い

サーバーは「ラック」と呼ばれる棚に何十台も積まれ、その棚が部屋いっぱいに並びます。大きな施設では、サーバーは数千〜数万台になります。少し古い数字ですが、AWS(Amazon のクラウド)の技術者は 2016 年に、同社のデータセンターの多くは 1 か所あたり5 万〜8 万台のサーバーを置いている、と話しています。

3 つの種類

データセンターは、使い方で大きく 3 つに分かれます。

種類どういうものか例
自社用1 つの会社が、自分のサーバーのために持つ銀行や大企業の計算センター
場所を貸す(コロケーション)建物と電気・冷却・回線を用意し、区画をほかの会社に貸す久留米市の計画は、この形と報じられている
大手クラウド(ハイパースケール)AWS、Microsoft、Google のような会社が、世界中の利用者向けに巨大な施設を持つIBM などの定義では、サーバー 5,000 台以上の規模

冒頭の表の糸島市の計画は、報道で「ハイパースケールデータセンター」と呼ばれています。

なぜ今、建設が増えているのか

生成 AI が、電気を一気に増やした

いちばん大きな理由は、生成 AIです。ChatGPT のような AI は、学習するときも、質問に答えるときも、大量の計算をします。その計算をしているのも、データセンターのサーバーです。

IEA(国際エネルギー機関)が 2025 年 4 月に出した報告書「Energy and AI」の数字を並べます。

項目数字
世界のデータセンターの電力消費(2024 年)約 415TWh。世界の電力消費の約 1.5%
2030 年の見通し約 945TWh。2 倍以上に増え、今の日本の総電力消費を少し上回る
AI 向けの典型的なデータセンター 1 つ10 万世帯分の電気を使う
いま建設中の最大級のものその 20 倍
日本のデータセンター20TWh 未満(日本の電力消費の約 2%)。2030 年までに約 15TWh(約 80%)増える見込み

IEA は 2026 年 4 月にも、2025 年のデータセンターの電力需要が17%増えたと発表しています。また 6 月の資料では、2030 年までの見通しは 2025 年の報告書の線からほぼ変わっていない、としています。

日本の中でも、電力の需要の見通しを立てている電力広域的運営推進機関が、2026 年 1 月の需要想定で、データセンターと半導体工場の新設・増設を需要が伸びる理由に挙げています。新しく増える分は、2030 年度に 308 億 kWh、2035 年度に 568 億 kWh。2035 年度の 568 億 kWh のうち、データセンターだけで 494 億 kWh と見込まれています。

東京と大阪に集中してきた。だから地方へ

もう 1 つの理由は、場所の偏りです。総務省の情報通信白書は、国内のデータセンターの「およそ 9 割が東京圏・大阪圏といった都市部に集中」していると書いています。そこで国は、データセンターの地方分散を進めています。2023 年の有識者会合のとりまとめは、地方に東京圏・大阪圏を「補完・代替する」拠点をつくる方針を示しました。

時期国の動き
2023 年 5 月総務省・経済産業省の有識者会合の中間とりまとめが、「東京圏・大阪圏を補完・代替する第三、第四の中核拠点の整備」として「北海道や九州のエリアにおいて整備を促進」と明記
2025 年 6 月「ワット・ビット連携」の取りまとめ。「電力と通信の効果的な連携」を掲げ、東京圏・大阪圏からのデータセンターの分散を進める方針
2026 年 9 月経済産業省が「GX 戦略地域」の第 1 弾を公表。データセンター集積型として、北海道の石狩市・苫小牧市、福岡県の北九州市・直方市・鞍手町、鹿児島県の薩摩川内市などを選定

冒頭の表の計画が九州に集まっているのは、こうした流れの中にあります。久留米市の計画も、発表で「東京・大阪等の都市部に集中するデータセンターの分散化に貢献」すると書いています。

電気を使う理由 ── サーバーは「電気を熱に変える機械」

使った電気は、ほとんど熱になる

パソコンを長く使うと、本体が熱くなります。サーバーも同じです。サーバーが計算に使った電気は、最終的にほとんどすべてが熱になります。それが何千台も、止まらずに動いています。

つまりデータセンターは、電気を大量に受け取り、それを熱にして外へ捨て続ける建物です。電気を使う理由は、次の 3 つに分けられます。

  1. 計算そのもの:サーバーが動くための電気
  2. 止めないこと:夜も休日も、ずっと動いている
  3. 冷やすこと:熱を外へ逃がす設備にも、電気が要る

冷やすための電気は「PUE」で測る

3 つ目の「冷やすための電気」がどれくらいかを表すのが、PUEという数字です。建物全体で使った電気を、サーバーなどの IT 機器が使った電気で割ったもので、1.0 に近いほど、冷却などの余計な電気が少ないことを意味します。

PUE
世界(IEA、2023 年)1.43
日本(IEA、2023 年)1.53
国の目標(資源エネルギー庁)2030 年度までに 1.4 以下。2029 年度以降の新しい施設は 1.3 以下

同じ IEA の数字で比べると、日本は世界より少し高い、つまり冷却などに余計な電気を多めに使っています。なお、業界団体 Uptime Institute の 2026 年の調査では、回答者の施設の平均が 1.52 でした。調べ方が違うので、上の表とは単純に比べられません。

PUE が 1.5 なら、サーバーが 100 の電気を使うとき、冷却や電源の設備でさらに 50 を使っている、ということです。

水を使う理由 ── 冷やし方で、まったく変わる

水は「冷やすため」に使う

会場で「冷却用に水を使う」と答えたのは、この部分です。ただ、ここには補足が要ります。冷やし方によって、水の使い方がまったく違うからです。

冷やし方で、水の使い方はまったく変わる。空気で冷やす方式:冷媒と空気で熱を運ぶので、建物で使う水はほとんどない。そのかわり電気を多く使う。水を蒸発させて冷やす方式:水が蒸発するときに熱を奪う仕組みなので、水を消費する。電気は少なくて済む。どちらの方式でも、発電所で使われる水があり、IEAの試算では米国の100MW級の施設で1日約200万リットル、その6割以上が発電などの間接的な水

  • 空気で冷やす方式:エアコンと同じように、冷媒と空気で熱を外へ運びます。建物で使う水はほとんどありません。米ローレンス・バークレー国立研究所の報告書も、空気で冷やす冷凍機は「水を使わないが、そのぶん電気を多く使う」と書いています
  • 水を蒸発させて冷やす方式:打ち水と同じで、水が蒸発するときに熱を奪う仕組みです。電気は少なくて済みますが、蒸発したぶんの水は戻ってきません

つまり、水と電気は、ある程度とりかえっこの関係にあります。水を節約すれば電気が増え、電気を節約すれば水が減る。「データセンターは水を大量に使う」は、蒸発させて冷やす方式の施設についてはそのとおりですが、すべての施設に当てはまるわけではありません。

数字で見ると

項目数字
世界のデータセンターの水の消費(IEA)年に約 5,600 億リットル。2030 年には約 1 兆 2,000 億リットルになる可能性
米国の 100MW 級の大型施設(IEA)1 日約 200 万リットル(約 6,500 世帯分)。そのうち 6 割以上は、発電などに使われる間接的な水

見落としがちなのが、この間接的な水です。この試算では、データセンターの建物で使う水より、データセンターに電気を送る発電所などで使われる水のほうが多くなっています。電気を大量に使うことと、水を大量に使うことは、根っこでつながっています。

日本の施設については、分からないことがある

正直に書いておくと、日本のデータセンターで、どの冷やし方がどれくらい使われているか、まとまった公開データは見つけられませんでした。

ですから、近くに計画が出たとき「水をどれくらい使うのか」は、一般論ではなく、その計画が、どの冷やし方を使うのかを聞かないと分かりません。

危険性 ①── ご近所にとって

原発のような放射能の心配はない

会場で「核ではないので、安全性自体は問題ない」と答えたのは、この意味です。

データセンターは、電気をつくる施設ではなく、電気を使う施設です。原子力発電所のような放射性物質は扱いません。中にあるのは、サーバーと電源と冷やす設備と回線です。

ただし、何も置いていないわけではありません。停電に備えて、非常用の発電機とその燃料、そして大量の電池を置いています。日野市の計画でも、住民から、燃料の保管場所や、火災・燃料漏れのときのリスクについて情報を出してほしいという意見が出ています。

ただし、「危険がない」と「ご近所にとって何も起きない」は、別の話です。実際に日本でも、データセンターの計画をめぐって住民との摩擦が起きています。

日本で、実際に問題になっていること

場所何が論点になったか
東京都昭島市(GLP 昭島プロジェクト)東京都知事の意見書が「緑の量が大きく減少」「24 時間稼働を行う計画」(夜間を含む騒音)「計画建築物の規模が大きく」(景観・圧迫感)「温室効果ガスの排出量が膨大」と指摘。報道によると、220 人を超える住民が反対の請願を出し、住民側は敷地の約 4,800 本の木のうち約 3,000 本が切られると見積もった。市の水道は地下水だけに頼っているため、水が減ることへの心配も挙げられた
東京都日野市市の環境審議会の資料によると、住民から 37 件の意見。多い順に、排熱 19 件、情報の非公開 16 件、騒音 10 件、CO2 9 件、電力 8 件
千葉県印西市駅前に計画されたデータセンターをめぐり、2026 年 3 月に住民が建築確認の取り消しを求めて提訴。工場や倉庫ではなく「その他の建築物」として扱われた点などが争点。排熱・騒音・日当たりへの懸念も報じられている

並べてみると、論点はだいたい同じです。

  • 騒音:冷やすためのファンや室外機が、24 時間止まらずに回る
  • 排熱:サーバーの熱を外に捨てるので、周りが暑くならないかという心配
  • 緑と景観:建てるために木を切る、大きな建物が建つ
  • 情報が出てこない:中で何をしているのか、どれだけ電気や水を使うのかが、住民に見えない

爆発のような派手な危険ではありませんが、毎日そこに住む人にとっては、こちらのほうがずっと切実です。

電池の火事は、起きる

もう 1 つ、建物の中の危険として、電池の火災があります。

上で書いた、停電に備える大きな電池(無停電電源装置)が燃えた例が、2025 年 9 月の韓国です。くわしくは後で書きますが、政府のデータセンターでリチウムイオン電池を移す作業中に火が出て、ほぼ 1 日燃え続けました。

ただ、この火事で大きく報じられたのは、近所への被害ではなく、止まった 709 の行政システムでした。この例で被害を受けたのは、建物の周りより、その中にデータを預けていた側です。この点は、最後の章でもう一度書きます。

危険性 ②── 戦争と災害

2026 年 3 月、中東の AWS に起きたこと

会場で「戦争になったら真っ先に狙われる」と答えたとき、念頭にあったのはこの件です。

2026 年 3 月 1 日(世界標準時)、Amazon のクラウド「AWS」は、UAE(アラブ首長国連邦)にあるデータセンターの 1 つについて、「データセンターに物体が衝突し、火花と火災が発生した」と発表しました。翌 2 日(米国時間)には、UAE の 2 施設が「直撃を受けた」こと、バーレーンでは「施設の近くへのドローン攻撃で、設備に物理的な影響が出た」ことを明らかにしています。アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を始めた翌日のことです。

AWS は被害をこう説明しています。

これらの攻撃により、建物の構造が損傷し、設備への電力の供給が途絶えた。一部では消火活動が必要になり、その水でさらに被害が出た。

燃えたことだけでなく、消火の水でも機械が傷んでいます。サーバーは電気の機械なので、火も水も、どちらも致命傷になります。

時期起きたこと
2026 年 3 月 1〜2 日UAE の 2 施設が直撃を受け、バーレーンの 1 施設も近くへのドローン攻撃で損傷
3 月 23 日バーレーンで再びドローンの影響。AWS は利用者に、ほかの地域へ移るよう呼びかけ
4 月バーレーンの別の区画も止まり、地域全体が使えなくなった(ロイターの報道)
9 月 15 日AWS が「この地域にだけ置かれていた資源とデータには、アクセスを戻せない」と発表

「狙われた」のかは、分かっていない

ここは、会場での答えを言い直さなければいけないところです。

AWS の発表には、自社の施設が狙われたという説明はありません。AWS は被害を「続いている紛争の結果」と説明しています。「狙った」と言っているのはイラン側だけです。イランの国営系通信社は「敵の軍事・情報活動を支えていたから攻撃した」という趣旨を発信し、7 月には革命防衛隊が「バーレーンにある Amazon の中核のデータ設備を巡航ミサイルで破壊した」と主張しました。どちらも、独立した確認はとれていません。

つまり、確かに言えるのは「戦争で、データセンターが実際に壊れた」というところまでです。わざと狙われたのか、近くの何かを狙った攻撃に巻き込まれたのかは、外からは分かりません。「真っ先に」は、言いすぎでした。

それでも、データセンターが戦争の被害の外側にいるわけではないことは、はっきりしました。建物は動かせません。止まらないことが前提の設備でも、建物ごと壊れれば止まります。

地震や火事でも、同じことが起きる

戦争は極端な例ですが、「建物ごと止まる」こと自体は、火事でも起きています。

2021 年 3 月 10 日、フランス・ストラスブールにある欧州最大級のクラウド事業者 OVHcloud のデータセンターで火災が起き、建物 1 棟(SBG2)が全焼し、隣の棟も 4 部屋が焼けました。ネット調査会社の集計では、約 360 万の Web サイトが一時つながらなくなっています。消防の報告書によれば、火元は電気設備(インバーター)で、その建物には自動の消火設備がありませんでした。

日本は地震の国です。久留米市で計画されている施設は、免震構造とされています。ただ、どれだけ頑丈に造っても、「1 つの建物が止まる確率」はゼロにはなりません。だから大事なのは、建物の強さより、次の話です。

本当の危険は、「1 か所に頼ること」

バーレーンで、データが戻らなかった人たち

AWS の 9 月の発表を、もう一度読みます。

この地域にだけ置かれていた資源とデータには、アクセスを戻すことができない。

裏返すと、ほかの地域にもコピーがあったデータは、そこから戻せたということです。AWS は利用者が「バックアップがあればそれを使って」立て直すのを手伝い、UAE の利用者の多くは、バックアップから戻したり、まだ読み出せたデータを写したりして、ほかの地域へ移ったと報じられています。差を分けたのは、データセンターの頑丈さではなく、データを何か所に置いていたかでした。

もう 1 つ、見落とせない点があります。AWS は、同じ地域の中でも建物を分けて(「アベイラビリティーゾーン」と呼ぶ区画に分けて)運用しています。それでも今回の被害は複数の区画にまたがり、AWS 自身が「当社の地域単位・複数区画のサービスが耐えるよう設計された範囲を超えた」と説明しています。近くの別の建物ではなく、離れた地域にコピーがあるかどうかが、明暗を分けました。

危ないのは、データを1か所にしか置いていないこと。左:1か所だけに置いた場合、その建物が火事や攻撃で止まると、データごと戻らないことがある。右:離れた別の場所にもコピーを置いた場合、1か所が止まっても、もう1か所のコピーから再開できる。コピーが何日前のものかで、失う量が決まる。近所にデータセンターが建つかどうかは選べないが、自分のデータの置き方は選べる

韓国では、政府の共有フォルダが消えた

同じことは、国の役所でも起きています。

2025 年 9 月 26 日、韓国・大田(テジョン)の政府のデータセンター(国家情報資源管理院)で、無停電電源装置(停電に備える大きな電池)のリチウムイオン電池を移す作業中に火災が起きました。警察の調べでは、多くの電池が電源から切り離されないまま移されていました。また当局によると、電池は 2014 年に導入されたもので、推奨される 10 年の寿命を 1 年ほど過ぎていました。

止まった行政システムは、最終的に709。すべて復旧したのは 12 月 30 日で、火災から約 95 日かかっています。

そして、公務員約 19 万人が使っていた共有の保存場所「G-Drive」(858TB)は、外部にバックアップがなく、担当官庁は「バックアップがないため、復旧は不可能と判断する」と述べました。政府が挙げた教訓は、主要なシステムを二重化し、2 つ以上の系統を同時に動かしておく(アクティブ・アクティブ方式)ことでした。

医院に当てはめると

ここからが、会場で言えなかったことです。

データセンターは遠い話に聞こえますが、医院のデータも、どこかの建物に置かれています。

医院のデータ置き場所の例
Web 予約、Web 問診予約サービスの会社が使っているデータセンター
クラウド型の電子カルテ・レセコンベンダーが契約しているデータセンター
院内のサーバー、NAS(共有ディスク)医院の中。これも「1 か所」です
写真・レントゲンの画像院内の機器か、ベンダーのクラウド

院内に置いたサーバーや NAS は、言ってみれば医院の中にある、とても小さなデータセンターです。火事や水害で医院が使えなくなったとき、そこにしかないデータは戻りません。韓国の G-Drive と同じ構造です。

ですから、聞くべき質問は「近所にデータセンターが建っても大丈夫か」より、こちらです。

  1. うちのデータは、どこ(どの国・地域)のデータセンターにありますか
  2. コピー(バックアップ)は、離れた別の場所にもありますか。何日分(何世代)ありますか
  3. その建物が丸ごと止まったら、何日で、どこから再開できますか
  4. バックアップから実際に戻せるか、試したことはありますか

医療機関向けには、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」があります。2026 年 6 月 29 日に第 7.0 版が出ていて、そのシステム運用編には、バックアップについてこう書かれています。

重要なファイルは数世代バックアップを複数の方式で確保し、その一部はマルウェアの混入による影響が波及しない手段で管理するとともに、バックアップからの重要なファイルの復元手順を整備すること。

同じ章では、備えの例として「広域災害対策(遠隔地バックアップ等)」も挙げられています。上の 4 つのうち、2 番と 4 番は、このガイドラインのバックアップの項目を、業者に聞ける言葉にしたものです。

業者に聞いてすぐ答えが返ってこなければ、それ自体が答えです。この 4 つは、情報漏えいの記事で書いた「委託先に聞く質問」と、同じ場所にあります。

できないこと

近所にデータセンターが建つかどうかは、一人の医院では選べません。建設の是非について、この記事は何も判断しません。根拠を持っていないからです。

でも、自分のデータをどこに、何か所置くかは、選べます。そして、そちらのほうが、ずっと身近な危険です。


まとめ

  • データセンターは、サーバー(画面のない、止まらないパソコン)を大量に並べた建物。電気・冷却・回線・警備をまとめて面倒を見るために、1 か所に集める
  • 建設が増えている一番の理由は生成 AI。IEA によると、世界のデータセンターの電力は 2024 年の約 415TWh から、2030 年には約 945TWh と、今の日本の総電力消費を少し上回る量になる見込み
  • 九州に計画が集まっているのは、国が東京圏・大阪圏からの地方分散を進めている流れの中にある。久留米市(1MW)から薩摩川内市(350MW)まで、規模は数百倍の幅がある
  • 電気を使うのは、サーバーが電気を熱に変える機械で、止まらず、冷やすのにも電気が要るから
  • 水を使うかどうかは冷やし方で決まる。蒸発させて冷やせば水を使い、空気で冷やせば水のかわりに電気を使う。発電所で使う間接の水も大きい
  • 原発のような放射能の心配がある施設ではない。ただ、発電機の燃料や大量の電池は置いていて、騒音・排熱・緑と景観・情報の非公開は、日本でも実際に住民との論点になっている。電池の火災も起きている
  • 2026 年 3 月、中東の AWS のデータセンターが戦争で実際に損傷した。ただし、わざと狙われたのかは確認されていない
  • 使う側にとっての本当の危険は、データを 1 か所にしか置いていないこと。バーレーンでも韓国でも、そこにしかないデータは戻らなかった

会場でいただいた質問は「データセンターは危険か」でした。答えを一言にすると、建物のそばに住む危険より、建物にデータを預ける側の危険のほうが、ずっと身近です。

近所に何が建つかは選べません。でも、自分のデータをどこに、何か所置くかは、今日から確かめられます。

Acetyl:Tech は、医院や中小企業の業務の整理と、システム・AI の導入を支援しています。 「うちのデータはどこにあって、コピーは何か所にあるのか」を、契約書やベンダーの資料から一緒に確かめるところからでも、お手伝いできます。まずは「お問い合わせ」からご相談ください。


出典・参考

電力・水・PUE

サーバーの台数

九州の計画

国の方針

住民との摩擦

AWS の中東の件

韓国・国家情報資源管理院の火災

OVHcloud の火災

医療機関のガイドライン

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